- 転職先はブラック企業 前回の話はこちら
- 接待こそ仕事だ!命をかけて総会に挑みやがれ
- 接待こそ仕事だ!1:接待のために宴会芸をマスターせよ
- 接待こそ仕事だ!2:相方・マゾ彦との作戦会議
- 接待こそ仕事だ!3:午前三時からの宴会芸練習
- 接待こそ仕事だ!4:理性を悪魔に売り渡す
- 接待こそ仕事だ!5:本業も忘れるな!ペンギンアップデートの恐怖!
- 接待こそ仕事だ!6:Googleさん助けてください
- 接待こそ仕事だ!7:瞑想と覚醒
- 接待こそ仕事だ!8:疲労満載の新宿
- 接待こそ仕事だ!9:ドン・キホーテにて覚醒
- 接待こそ仕事だ!10:ブラック企業の決算総会、ついに本番当日
- 接待こそ仕事だ!11:戦場へと赴く
- 接待こそ仕事だ!11:宴会の始まり、地獄の始まり
- 接待こそ仕事だ!11:みんなも地獄
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- ブラック企業から転職しよう
転職先はブラック企業 前回の話はこちら
接待こそ仕事だ!命をかけて総会に挑みやがれ
クライアントを集めて大騒ぎする総会の話の前に、ブラック企業のイベントに対する熱意は凄まじいものだということをお伝えしたい。
ブラック企業でよくあるのが「謎の仲間演出」である。
日頃頑張っている仲間なんだから称え合おうぜ、お祝いしようぜ、みたいなのがそれなのだが、基本的に面倒くさい。
当然わがブラック企業にもその風習はあった。誕生日イベントである。誕生日を迎える人を月に一回まとめてお祝いするのだが、これがもう茶番も茶番なのだ。
流れとしては、
- 業務中にいきなり音楽が流れる
- イベント担当がケーキをもってくる
- ケーキを一斉に吹き消す
- プレゼントを一人一個もらう
- 仕事への意気込みを語る(?)
- お金を徴収する(???)
とまあこんな感じである。ここでおそらく6番に対する意味不明さが際が立っていると思うので説明しておこう。
誕生日イベントは強制である上に、かかった費用を「現金で」「その場で」回収する。
祝われる方としては、ケーキを食べ、プレゼントをもらった直後に 「はい皆さん一人2000円でーす」とか言われるのであんまり気分が良くない。
しかも、金額は2000円〜3000円くらい徴収されるので、払う方も痛い。
つまり、誰も喜べない誕生日イベントなのである。一体何のためにやっていたのだろうか。
接待こそ仕事だ!1:接待のために宴会芸をマスターせよ
さて、決算総会の日にちが迫る。笑いのセンスなどダンゴムシの知能並みにない僕に降り掛かってきた「株主・取引先前でやる漫才」。この難題に僕は困り果てていた。
大学時代に初対面の関西人から全然面白くないと真顔で言われて以来、元から欠如している笑いのセンスを磨く気すらなくなっていたのだ。
とりあえず、自称天才的超一流コミュニケーターの社長に、漫才をどう作るか聞いてみた。接待が得意そうな社長なら、いい話を聞かせてくれるはずだ。
「あのな、笑いっていうのは緩急なんだよ。静と動。こうピンと張り詰めたところから笑いがドドーっと入ってくるとさ、ドカーンとくるんだよ!」
何度か聞き返したが、全くわからなかった。
仕方ないので、YouTubeでコントや漫才を見まくることにした。先輩方の流れをおパクり致す所存である。
研究した結果、
- あるあるネタ
- コント(キャラ押し系)
この2つがやりやすいのではないかと結論づけた。
前者を選んだ理由は、観客の共感(=あるある)を得ることで、爆笑は得られずとも何らかの表情の変化(≒失笑)くらいは狙えるのではと踏んだから。
後者は強烈なキャラを作り上げることで、場の雰囲気の主導権をもっていくことを狙って。
この2つの方向性で、ネタを考えてみることにした。
接待こそ仕事だ!2:相方・マゾ彦との作戦会議
「でもよ〜」
なぜか陸上自衛隊からうちのブラック企業に入社したマゾ中のマゾ、マゾ彦は言う。こいつも笑いのセンスは皆無だ。ちなみにセンス皆無ながら僕の相方となっている。
「うちのあるあるっていったらトイレで寝るとかA会議室が寝やすいとかだろ〜?そんなの取引先前で言っていいのかよ〜」
確かにそうである。
「かと言ってもよ~、普通のあるあるだったら当たり前体操みたいなのがもう既に出てて、それも古いじゃんかよ〜」
言うとおりである。
「じゃあ、お前面白いキャラとか考えられんの?」
「無理だよ〜」
よって、僕らは失笑必死のあるあるネタ構築に走ることとなった。
接待こそ仕事だ!3:午前三時からの宴会芸練習
訪問先の帰りの電車で現行を書き、仕事を終わらせた午前3時から練習。ただし、オフィスではまだ仕事をしている猛者もいるため、非常階段の踊り場で練習するのだ!
「しょうきちと!」
「マゾ彦の〜!」
「あるあるコント〜〜!!」
ネタには全く持ってキレがなかった。
しかも、見回りの警備員に見つかるとやめさせられて警告を受けるため、逃げ回る必要がある(ビルは宿泊禁止)
「あのさ〜、やっぱりなんかほしいよな〜、アンガールズみたいなやつ〜」
「ジャンガジャンガ?」
「そうそう〜」
「どんなやつだよ……」
マゾ彦は高速でスクワットをしながら、
「パンパンピーン!ププンペーン!!ポンポンポポンポーン!!!」
と叫びだした。
深夜4時のテンションである。品も面白さも全てがダンゴムシレベルだ。
そのとき、
「そこ!今何してる!」
警備員に見つかった。
「君たち、所属はどこ?」
僕らは一瞬止まって、
「はい、田中不動産です」
と一階下のテナントの名前をとっさに告げて逃げ出した。
僕は走りながら考えていた。接待とは仕事の全てであり、仕事とは接待なのだ。なぜこんなにつらいかと言うと、接待は辛く、仕事は辛いからだ。つまり、接待が、つらいのは、接待が、仕事だか、ら……
接待の練習で完全に眠くなっていたが、僕らは頑張って走り抜き、警備員を振り切って階段の下でそのまま寝た。
翌日、僕らはビルの中にいるにも関わらず寝坊をし、遅刻をした。
接待こそ仕事だ!4:理性を悪魔に売り渡す
翌日。
朝4時半。階段の踊り場にて、奇妙な人影が動くのが見える。
「ਹੈਲੋ ਧੰਨਵਾਦ!」
「はい!どうもどうも~!しょうきちくん今日も元気がいいね~!」
「ਇਹ ਵੀ ਇੱਕ ਕਿਸਮ ਦੀ ਨਹੀ ਹੈ! 」
「なんだ!そうかそうか!あはは~~!!」
「ਅਸਲ ਵਿਚ ਹੈ, ਮੈਨੂੰ ਪਟ ਹਾਲ ਹੀ ਵਿੱਚ ਇੱਕ ਮੱਛੀ ਬਾਰੀਕ ਅਤੇ ਭੁੰਲਨਆ ਲਈ ਗਲਤੀ ਉਬਾਲੇ ਸੀ!」
「マジかよ~!どうりでさっきから俺のパンツからいい出汁が出てると思ったぜ!」
まず残念なことを申し上げなければならない。この2人のうち、奇声をあげているのは僕である。
僕でさえも、なぜこんなことになったのか理解できていない。しかし、僕のやることは、パンジャブ語をひたすらしゃべることである。
さて、いわずもがなではあるが、この漫才をもし傍から見ている奇特な傍観者がいるとするならば、僕らはさぞかし変態的に映ったことだろう。
それもそのはず、会話の頭の悪さがマジでハンパなく、ダンゴムシから黄色ブドウ球菌並みの知能にランクダウンしている。
そしてそれ以前に怪しいのが、漫才の相方であるマゾ彦は日本語でしゃべっているのだが、僕はパンジャブ語でしゃべっていることである。
このカオスな状況にいたるまでには紆余曲折あった。
まず、あるあるネタで笑いを取るのは不可能だった。もうなんというか、笑いのツボをつけなかった。「空は青い」とか「飯はうまい」とか「僕たちは寝たい」とかそれくらいの、一億総同意できるくらいのちんけな最大公約数しか僕らは狙えなかったのだ。
これではお茶を濁すことすらできない。むしろ、この漫才を発表する総会の後に社長に呼び出され、みっちり説教を受ける姿しか想像できない。
ならば、われら日本男児得意の玉砕である。玉砕あるのみ。会場に特攻(ブッコ)み、見せてやるのだ。意地を。
それから僕らが無い知恵を出し合った結果、「片方が意味不明な言語でしゃべっているのになぜかコミュニケーションが成立しているという亜空間を生み出そう」というクレイジー極まりないアイディアが爆誕してしまった。
それが上記の図である。(僕はベンガル地方で生まれ育ったわけではないのでパンジャブ語はしゃべれない。よってGoogle先生の翻訳機能をもって発音を真似してしゃべっている)
ちなみに日本語に修正してみると、会話は下記のようになる。
「どうもこんにちは!」
「はい!どうもどうも~!しょうきちくん今日も元気がいいね~!」
「そんなでもないよ!えへへ!」
「なんだ!そうかそうか!あはは~~!!」
「実はさ、最近はんぺんと間違えてパンツを煮込んじゃったんだ!」
「マジかよ~!どうりでさっきから俺のパンツからいい出汁が出てると思ったぜ!」
※一応これでも2人とも一流私大と呼ばれる学校出身である。世も末だ。
接待こそ仕事だ!5:本業も忘れるな!ペンギンアップデートの恐怖!
仕事を朝4時に終わらせてからほぼ寝るまもなくこんなことをしているわけだから、昼間の集中力といったらなかった。
眠気を忘れるために、とりあえずヘビーメタルをかけながら目を見開いているといった具合だ。もはやそれしかない。
朝出勤してくるデザイナーたちとしゃべるのもきついため、一人1枚ずつ、A4ペライチに指示を書きなぐっておく。それを読んでもらうまではとりあえずトイレで寝られるのだ。
トイレにかけこみ、ブラックのシャレオツなドアを閉め、少し硬い壁に頭を預ける。ああ、これで5分。至高の5分。これで僕は生まれ変われる……
と、そのとき僕の携帯が鳴り響く。デザイナーからだ。きっと指示書の説明を求めるコールだろう。まったく、もうちょっと指示書を丁寧に読んでから呼び出してほしいものだ。
1分ほどたってからかけなおすと、
「遅い!なにやってんの!大変だったんだから!」
「いったいどうしたんですか……」
「お客さんから電話がいっぱいかかってきてるわよ!」
「なんだって……?」
「うちでSEO契約してるサイトが圏外になっちゃったって!!」
僕はこのままトイレで一生を過ごしたいと思った。
接待こそ仕事だ!6:Googleさん助けてください
実はこの件、ものすごくやばいことなのだが、状況を簡単に説明しよう。僕のブラック企業では、お客さんのサイトをいろんな人に見せるテクニックを売っている。
その中にはちょっとグレーゾーン的なものもあるのだが、今回、そのグレーゾーンをグーグルさんが見破れるようになったのだ。見破られたが最後、そのサイトの訪問者はがた落ちする。つまり儲けが減る。だからお客さんはあせりまくって電話してくるのだ。
具体的に言おう。皆さんがごらんになっているこのブログは第二新卒の転職者をメイン読者にもっていて、「第二新卒 ブログ」とかで検索すると上から2番目に表示される。
結構目に付きやすいところに出ているのだ。では、仮にそれが表示されなくなったらどうなるだろう?僕のブログは「第二新卒 ブログ」で検索してくる読者を大幅に失い、閑古鳥が鳴く。
個人ブログだとそんなに大きい話でもないが、これがたとえばクーポンサイトのポンパレだとしよう。
旅行券とか通販を格安で利用できるサイトなのだが、当然こういったサイトを訪問するときには「クーポン」とかで検索する。
おそらく「クーポン」で検索する人は数十万人/月でいるだろうから、流入してくる人も莫大だ。そんなデカい流入経路がある日突然グーグルさんによって待ったをかけられるのである。そう、大惨事だ。
「しょうきちさん!どうしたんですか!1日でも早く復帰しないと売り上げが一気に落ち込むんですからね!」
「ちょっと待ってくださいよ……」
焦った。この手のグーグルさんによる改変は、原因の特定がむずかしい。なぜなら、グーグルさんは「悪いところは勝手に早く直してください」的なスタンスで、どこが悪かったかを教えてくれないのだ。
グレーゾーン的な改造なんてどんなサイトも数え切れない箇所をやっているため、簡単に特定することは困難である。
「とにかく、来月頭のミーティングまでには何とかしてください。さもなければ、契約の打ち切りも視野に入れます」
「そんな……!」
接待も仕事である。しかし、仕事自体も、もちろん仕事なのだ。
接待こそ仕事だ!7:瞑想と覚醒
決算総会まであと1週間を切った。
僕らの漫才は、完全に迷走していた。
先日完成した「異国語(パンジャブ語)をしゃべる相方を完全無視しながら進める漫才」をリハーサルで社員に見せた結果、
- カタツムリが這っているのをただ見ているのと同じくらい苦痛
- 面白いという言葉の定義を教えてほしい
などと非常に辛辣な言葉を頂戴してしまったため、全ては白紙に戻っていた。
「こうなるのって、もう最初からわかってたんじゃね~の~?」
「うるせえ!」
マゾ彦のマイペースな正論をたたき返しながら、僕らは再度構成を練らねばならなくなった。何度もいうが、仕事の終わった深夜3時からはじめるのだ。辛すぎる。
何せ、Googleのアルゴリズムの変更が起こったことで、クライアントの説明資料を大量に作成しなければならないのだ。
時間がないので、僕らは会議室にこもると、とりあえずYoutubeを見て、面白いところをパクっていくことにした。
20分ほどお笑い動画を真顔で見ていたときのことである。チンチクリンの巨大デブが女装をして現れた。動画内の会場はそれだけでどよめき、爆笑の渦が巻き起こっていた。
響 『ミツコと先輩』
それは、響の長友であった。
その光景を見た瞬間、僕の脳裏に出てきた言葉は「勝利」の2文字である。圧倒的な奇抜さで相手の言葉を、思考を、主導権を奪い、こちらのペースに持っていく……!すなわち「出落ち」……!究極の逃げ切り芸……!最初よければすべて良し……!
※ちなみに観客の思考を奪って笑いの主導権を握るというのはパンジャブ語漫才でも実施しようとした方法なのであるが、脳がバグっている自分にはもはや省みる余裕など微塵もなかった。
僕らの出演時間はせいぜい5分~10分である。その時間だけ逃げ切れるだけのインパクトを与えれば良いのだ。もはや僕らのセンスは内容で勝負できない。出落ちだ。出落ちで逃げ切ろう。
「これだよ、マゾ彦」
「もう何でもいいよ~」
とりあえず歌舞伎町のドンキホーテに向かった。
接待こそ仕事だ!8:疲労満載の新宿
明け方近くの歌舞伎町なわけだから、ゴミ、カラス、よっぱらい、ホームレス、キャッチ。これが大体同じくらいの割合で視界に入ってくる。不健康・不健全の街。それが新宿だ。薄明るくてほこりっぽい街を僕らは歩いた。
「マゾ彦は最近どう?」
「ん~とね~」
マゾ彦は10秒ほど唸ってから、「駄目だね~」と答えた。
「俺ね~、この会社に入ってから、仕事がちゃんと終わったこと1度もない」
「知ってる。というか、終わってるやついないと思う」
「大体やろうとしていることを次の瞬間忘れてて、後で思い出したときにはもう遅くてね~」
「忙しすぎて頭バグってる?」
「そうかもしれないね~」
「うちの上司と同じだな。タスクが多すぎて、どんどんタスク忘れていくんだけど、後でこれ忘れてませんか?って聞くとうおおおおって吼えながらやり始める」
「それよく見るね~」
「その5秒後くらいに疲れすぎて寝てるときとかあるからね。みんないっぱいいっぱいだよ」
「そうか~」
「ところで、しょうきちくんは?この仕事ずっとやるの~?」
「えっ」
突然のことで驚いた。僕は、この仕事を、続けるのだろうか。続けるべきなのだろうか。
「ずっとは無理だと思う」
「だよね~」
深夜に新宿の夜をみつめながら、何のために働いているのかを自問自答する。そんな毎日を続けてはいた。しかし、答えはでなかった。成長か?確かに成長をしている実感はあって、それは貴重なことだ。でも、なんか違う。
別にホームページのディレクターになりたいわけではない。感謝されるのはうれしいけど、この仕事自体にモチベーションはあまり感じていない。
じゃあお金?
確かに仕事しかしていないのでお金は貯まる一方だが、もしお金を貯めるのを目的化するのであれば別の仕事があるはずだ。それじゃあ何だ。何なんだ……
ガード下を通ると、自然とホームレスの隣を通りながら進むことになる。「僕も仕事がなくなったらこうなるのだろうか……」と考える。
いや、待てよ。自分は既に会社をやめている。新卒の会社を11ヶ月でだ。そんな人間が今また仕事を失えば、再就職は可能なのだろうか。いや、無理だろう。
そうだ。仕事は「なぜやりたいのか」ではない。そもそも「やめてはならない」のだ。僕にとっては。やめたら最後。転落の日々が待っているのだ。第二新卒の転職を2回も繰り返すなんて、次はきっと採ってもらえないぞ……
「ほら、しょうきちく~ん、行くよ~」
歩みが遅くなった僕を催促するようにマゾ彦が僕を呼んだ。
接待こそ仕事だ!9:ドン・キホーテにて覚醒
ドンキホーテに入ると、流行にかなってはいるものの、質の悪いコスプレ衣装が大量に並んでいた。バニーガール、メイド服……
「もともと自衛隊だったから、これやろ~」
マゾ彦は自衛官の征服に似た迷彩柄の戦闘服を見つけた。ふと見ると、隣には迷彩柄のスカートつき女性用戦闘服もある。
「しょうきち、これきてみてや~」
「嘘だと言ってくれ」
「しゃあないやろ~」
もはや抵抗する意思もなく、5000円ほどする女性用戦闘服を買う僕。しかし、これを着ただけではただの女装ということに気づく。
「もっと変なのにしようよ。響の長友くらい出落ちしようよ」
「いいねえ~~」
結果、中学生の悪乗り感覚で買い足したのは以下のアイテムである。
- 網タイツ
- キティちゃんサンダル
- 電マ
- 「日本バンザイ」のはちまき
- ハエたたき
これらをすべて「僕が」装着することになった。女性用戦闘服と一緒にである。
マゾ彦はというと、普通に男性用の戦闘服を着て、自前(=つまり本物)の自衛官帽、模型のアサルトライフルを持つ。
オフィスに帰り、戦闘服も含め、これをすべて試着した瞬間、
「これは……やばい……!!」
「完全に出落ちだけど、主導権もっていけるね~~!!」
お互い鏡に映った自分たちを見た。これはやばい。選んだ僕らでさえ、その衝撃力に卒倒するほどだった。マゾ彦は元自衛隊ということもあり、それなりに決まっている。帽子も制服も着こなしているし、アサルトライフルも心なしか持ち方がかっこいい。
しかしながら、僕はというと女性用のくびれた制服を身にまとい、スカートから伸びた脚には網タイツ。なぜかキティちゃんの健康サンダルも装着しており、「イメクラ嬢が仕事着のままデートに行こうとしたけどどうしても時間がなくなり、あせった結果間違えてサンダルを履いてしまった」みたいなありそうで絶対にないシチュエーションを再現してしまっている。
その上、手に持っているハエたたきと電マで威嚇してくるし、頭に巻いているハチマキの「日本万歳」が異常な情熱をうったえてくる。傍から見ると、何に命を賭して国家に万歳しているのか全くわからない。
ナメクジ以下でおなじみ、デフレスパイラルに陥った自分の脆弱な知能を駆使した結果がこれである。
「これはやばいね~」
「こんなやつ絶対に近づきたくない」
僕らは鏡を見ながらそういった。もちろん僕が近づきたくないといったのは自分を指してである。ちなみにこの格好で少し微笑むと完全に変態だ。
満足した僕らは、簡単に漫才の方向性だけ決めて寝る事にした。マゾ彦は自衛隊の指導教官、僕は訓練中にハードワークに耐えられずに狂乱してしまったサイコパスということに。さあ、よし、寝よう。まだクライアントに向けての資料もつくっていないんだ。
さて、僕らが眠りについたのは朝6時半のことだった。また、僕が購入したものは自分のデスクの上に置き忘れて会議室で寝てしまったのだが、その中に混じっている電マが女子社員に見つかり、騒動を巻き起こすとは想像もしていなかった。
僕はクライアントのクレームと戦いながら、社内で「これは卑近な目的で購入したのではない」と弁明するはめになった。
接待こそ仕事だ!10:ブラック企業の決算総会、ついに本番当日
さて、決算総会当日。
都内某所のホテルにて、宴会の最終準備が行われていた。精鋭の営業担当がホテルとの打ち合わせとパワーポイント作成を交互に繰り返している。もはや職人の域だ。
その日は業務を早々と15時に切り上げ、都庁付近のホテルに向かった。ホテルの宴会場を貸しきって行われるのだ。
デザイナーののびたやギャル社員たちは社内に残って案件を処理してくれている。みんなが頑張ってくれている中、僕らはひたすらに変態だった。
自衛官の格好をビシっと決めたマゾ彦。そして、自分はというと、手には電マ。これで道を歩けば一発逮捕のスーパーアウトロースタイル。これなら会場全体は僕に釘付けだぜ。
総会は2部構成で実施され、前半は経営状況の説明、後半は僕らがワイワイやる(やらされる)宴会という形になっている。
前半の経営成績の発表のほうは、「ほぼ全部署200%成長」というよくわからない数値が発表されてシンプルに終わった。まあ、あれだけ働いていたらそうなるだろうなあ……と。
そして社長からは2点、連絡があった。
- 上場を見越して社員持ち株会が発足されるということ
- 従業員の職場環境改善のためのルールを施行するということ
両方ともすばらしいニュースだった。光が見えた。何せ、持ち株会を買っておけば、上場と同時に莫大な利益が入る。仮に20倍の値段だとしたら、たった100万買っておいただけでも2000万である。この会社で働く希望が見えた気がした。
ところが、職場環境改善のルールは「机の上にものを置いたら罰金1000円」「午前1時以降は会社から出て、ファミレスで仕事をすること」などでであった。
理不尽すぎる内容だったから、僕はまた落胆した。
接待こそ仕事だ!11:戦場へと赴く
社長のありがたい話が一通り終わった後、僕らは別の宴会場に移動した。
僕は出演者であったため、裏方でほかの出演者と一緒に着替えていた。
帰り道に歩きながら歯を磨く「さんま」はアナと雪の女王のコスプレをしており、なんだかクーラーボックスに重そうなものを入れていた。たぶん雪の演出をするためのドライアイスだろう。新卒の女の子は妖怪ウォッチのコスプレをしており、体操を踊るみたいだ。
出演者はそれぞれテーマがあったが、僕らは激しく浮いていた。何度も「しょうきちさん、変態ですね」といわれた。
そのたびに「ありがとうございます」と返していたら、マゾ彦からは「だんだんナチュラルな笑顔が出てきて本物の変態ぽくなってきたね~」とお褒めの言葉を預かるまでになった。
僕は復讐と称し、手に持った電マを彼の急所に押し当てながらケツをハエたたきで何度も叩いたのだが、後々思い返すとその行為こそ変態のそれだと気づき、深く反省した。
「さて、そろそろ時間になってまいりました!わが社がほこるエンターテイナーがス
テージで暴れまわります!」
アナウンスが流れた。さあ、時間だ。マゾ彦は拳を握り締め、僕は電マを握り締めた。
接待こそ仕事だ!11:宴会の始まり、地獄の始まり
見ると、クライアントたちが控えている。僕のチームのメインクライアント、「頭脳警察」の後藤の姿もあった。
「自衛官と~~!」
「サイコ・パス太郎のぉぉぉぉぉ!」
「ショオオォトコント~~!!」
自衛隊の軍曹(マゾ彦)と、新入りのサイコパス隊員(しょうきち)という設定だ。サイコパスだから電マを握っているという設定もまかり通ってしまう。
さて、これからトークが始まるが、僕らには作戦があった(何個目の作戦かわからないが……)
ここで参考にしたのは、スリムクラブの超スローテンポトークである。 彼らの面白みは、「間」だ。話の途中で突如生まれる「間」、観客の混乱、そして意味の分からないキャラ。ゆっくりと過ぎていく時間をこらえる中で、じわりとこぼれてくる笑い。ネタ自体はそこまでキレキレでもない。でも遅くするから面白い。僕らもこれをなぞろう。よくわからないキャラで観客を混乱させ、「間」で焦らせていけばいい。
マゾ彦がいう。
「これから敵の基地の索敵を行う~!さあ、写真を撮ってこい!」
「は、はあああああい!」
口を開けっ放しにしながら、僕は叫んでiPhoneをポケットから取り出した。そして、カメラモードにして観客向けてシャッターを切った。
「パシャ、パシャ……」
会場内に静かに響く、iPhoneのカメラ音。観客はもうすでに何人か、ニヤニヤし始めている。
「お~い!」
「な、なんですかああああ?」
ふたりとも口を開けっ放しにしながら、向き合って見つめ合う。
「お~い、写真を撮るならなあああ、ちゃんとしたカメラがいいだろ~」
「えっ、あああああ、そうかあああ」
時が進むのが1/2になったようなスピードで、僕は電マを取り出し、スイッチを押した。回転音が鳴り響く。そのままiPhoneに押し当てると、
「ギュギュギュギュギュイ!!!」
と、iPhoneが電マで擦れて変な悲鳴を上げた。
「お~い、写真を撮るならなあああ、電マを使うな~~!」
「えっ、あああああ、そうかあああ」
これで〆である。脳みその代わりにババロアを詰め込んだような思考で作ったコントであったが、予想外に受けた。キャラの勝利だ。
コントが終わった途端、突然後藤が立ち上がったと思うと、手元の白い何かを投げつけてきた。ショートケーキだった。他にも頭脳警察の社員が現れ、顔に押し当てられたり、投げつけられたりする。一瞬のうちに僕は真っ白になった。
ああ、これはおそらく社長が仕組んだものだと一瞬で理解した。
僕は過去に後藤からご指名でお叱りをもらっていたから、そのフラストレーションを面白おかしく解消するようなショーとして組んだのだろう。後藤自身も、ショーの中とは言え、僕を使ってストレスを解消するような行動をとったわけだから、今後の当たりは少し優しくなるだろう。なんとも政治的な宴会だこと。
接待こそ仕事だ!11:みんなも地獄
芸を終わらせて裏手に向かうと、若手の宴会芸出演組が揃っていた。乳首に洗濯バサミをつけて引っ張り合う新卒の男子(東大卒!)の芸、瓦割りを披露する女性社員のチーム。それから帰宅しながら歯磨きをする変態、さんまの姿もあった。
さんまは関西弁で言う。
「今回は悪いけど、俺のアナ雪のオマージュが一番盛り上がるな。みんな笑い転げる姿が想像できるで」
ニヤニヤしながら自信満々に宣言しているが、僕は別にそんなことはどうでもよくて、シンプルにこの場が過ぎ去ってほしいと思っていた。穏便に、だ。何せ、メインクライアントの親玉を前にして特濃の羞恥プレイを行った直後なのだから。
「じゃあ、頑張ってくるで!」
そう言うと、さんまは金髪のかつらを被って悠々とステージに躍り出た。サポートのインターン生が、必死にステージの上で何かやっている。ビニールシートを敷き、何かを撒いているのだ。
安っぽいアナウンスが流れる。
「さあ、今年流行ったアナと雪の女王から、アナさんとエルサさんが来てくれましたー!」
さんまは剣道部出身の女の子と一緒に、ローションでベタベタにした床の上で、氷漬けにした鯖を持ってチャンバラをしていた。凍った鯖についた氷がチャンバラするたびにはじけ飛び、さながらエルサの雪の魔法のように見えるという趣旨のショーだった。
もちろん、足元がローションでクソみたいに滑るので、鯖をうまく振ることができない。振りかぶろうとして鯖が手元を離れ、スーンと飛んでいく様はなかなかにシュールだ。
最後は残っていた鯖を新卒の女の子が全員で持っていき、さんまをメタメタに叩いて終了した。会場は上々の反応であったが、最近取引を始めたクライアントは引きつった笑いで拍手をしていた。
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