【体験談】転職先はブラック企業

転職先はブラック企業第15話「地獄の無給インターン」

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転職先はブラック企業第14話はこちら

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地獄の無給インターンはクライアント先で

日本は広い。いろんな企業がある。中卒のおっちゃんの電気店が世界的企業になったり、ミドリムシを研究し尽くした秀才がバイオベンチャーを作ったり。

いろんな企業があるから、ブラック企業も色々ある。うちだけじゃない。ブラック企業はその数だけ人を不幸にし、人の生活を奪っているのだ。

ひとときの休息の後は、再び戦場へと向かう。アポ先は高田馬場の近くだ。学生のたむろする駅前のロータリーを抜けて、大久保方面へと向かって歩く。格安のイタリアンとファミレスに挟まれた、5階建てのマンションがあった。管理人もいない、簡素なビル。

見ると、エレベーターには「故障中」の張り紙が貼ってあった。スチールの階段を5階まで登らねばならない。ため息が出る。

株式会社ドリームプラン。社員数8人ほどのベンチャーだ。サプリ販売を主力としている。サプリ系のビジネスは、実はWebマーケティングと密接な関わりを持つ。利益率が高いから、マーケティングに金がかけられるし、イメージで購入される部分もあるから、Webプロモーションで顧客の心をつかめば一気に成長できる。もちろん、実際の効果は使ってみなければわからないけれども。

副社長の青井の紹介で取ったアポだから、説明は青井の説明が頼りだ。

「俺の大学時代の後輩がやってる会社なんだ。うちみたいに、モチベーションの高い奴らが運営しているよ。しかもこれから新事業を立ち上げる予定だから、うまくいけば、サイト制作も一緒に受注できる。しょうきち、頑張って契約取ってきてね」

子供のおつかいみたいに簡単に言う。アプリ系の企業ならきっと、他のWeb企業からも営業を受けているだろう。今やっているWebサービスの分析までやりたかったが、早朝にねじこまれたアポだからどうしようもなかった。

階段を登りきると、ドアには「株式会社ドリームプラン」の文字。テプラで作ったやっつけの看板だ。チャイムを押すと、やけに若い女の声。

「はーい!お待ち下さい!」

地獄の無給インターン1:猛烈なインターン

ドアが開く。やけに若い女性がペコリと頭を下げた。学生のインターンだろうか。まだ20歳になったばかりだろうか。満面の笑顔と元気な挨拶は非常によろしい。

「A社のしょうきちと申します。Webマーケティングのご提案で伺いました」

「お待ちしておりました!どうぞこちらへ」

マンションの1室をオフィスにしている。入ると、社員がノートパソコンを開いて黙々と作業をしていたが、僕が部屋に入った途端、

「こんにちはー!!」

と挨拶をしてくれた。迫力に押され気味になる。

「ども、こんちゃっす」

作業をしていた中の一人が立ち上がり、近づいてくる。

「今サプリの運営部長をやってます、柿沼です。よろしくっす」

日焼けした肌と、金色のアクセサリーに加えて香水の匂い。普段なら、絶対に近づきたくないタイプだ。

「どうも、本日はありがとうございます。しょうきちと申します」

「しょうきちさんっすね。よろしくっす。こちらへどうぞー」

顎を前後に動かす行為が、こいつ流の「頷く」という行為らしい。面倒くさい相手だ。

地獄の無給インターン2:チャラい責任者と兵士のようなインターン生

驚くことに、ドリームプランはWebマーケティング企業を一つも使っていなかった。なんと自社の社員で力技で回してきたという。きっと、軍隊のように挨拶してきた社員とインターンの活躍ぶりなのだろう。

社員は8人と聞いていたが、実際の社員は3人。あとの5人はすべてインターンだという。そろそろ業務効率化のために、僕らの扱うCMSを導入することも考えていたという。

奇跡だ。こんな穴場の案件他にはない。取り逃がせない話。

「いや、しょうきちさん。結構いい話っすね。やってみたいっす」

「本当ですか!」

「最初の月、お試しなんでしょ。超いいじゃないですか。ガッツリ調べてくださいよ、うちのサービスがどれだけ成長できるか。マジ楽しみっす」

「ありがとうございます!」

まさかのトントン拍子。1ヶ月のお試し申込書のサインにも、気軽に応じてくれる。なんて楽なアポなんだ。日頃の行いが報われる日がやってきたのだ……!

「ところで……」

気分を良くした僕は、気になったところがあったので、聞いてみた。

「すごいですね。インターンの皆さん。少数精鋭だ。それだけ優秀な人材を揃えるなら、きっと作用費も人件費もかけていらっしゃるのでしょう」

「んなことねえっすよ」

「は?」

「あいつら無給っす」

「無給?無給インターンですか」

「そうっすよ。成長したい、経営に携わりたいって言ってるんで、それならギリギリの環境でもやれる根性をまず鍛えろって言ってるんすよねー」

「そ、それはすごい……大した根性だ」

「うちの方針は全員経営っす。全員が利益に本気にならないとマジ意味ないっす。お宅もそうでしょ?サービスでかくするために、青井さんのコネまで使ってきてるんじゃないすか」

「いや、そうですね……たしかにそうだ」

「稼げもしないのに給料給料って言ってるやつもいましたよ。でも、そんなのふざけんなって。まじで。クズに出す金はねえって。何もできないやつに金払うのって、そんなのボランティアだって」

柿沼は大真面目に言う。

「親にもカネ出してもらって悠々と学校通わせてもらって、会社でもカネ出してもらって悠々と暮らして。いつまでスネかじり人生続けていくんだよって感じですよね。マジ人生舐めてる。そういうふうに詰めてたら、素直になりましたよ。今では立派なメンバーだと思ってるっす」

狂気だ。ここにいるインターンはきっと、この会社で何もできないやつは一生負け犬みたいな思想を植え付けられているのだろう。だから、意味の分からない重労働にさえ本気で食らいつく。思考停止した人間は、ある意味一番やっかいだ。

地獄の無給インターン3:受注できそうだが……

「勉強になりました。僕もそういうベンチャースピリット、忘れないようにしなければならないですね」

「当たり前っすよ。ベンチャースピリット無くしちゃおしまいですよ。世間で落ちぶれてる電機メーカーとか、絶対甘ちゃん天国っすよ。だから落ちぶれるんすよね」

「は、はは……」

引きつった笑いでオフィスを出た。出るときも、軍隊のような挨拶が響く。彼らがいろいろなものを捨ててここで働いて得るものは一体何なのだろうか。

地獄の無給インターン4:歌舞伎町で見たもの

「やるな、しょうきち!」

帰社すると、同僚のさんまが褒めてくれた。

「営業2日目で即日契約か、ようやるわ!」

「青井さんの紹介案件だったからね。うまく事が運んだよ」

「ええなー、恵まれてるな。今度は俺にも良いアポ回してもらうわ」

オフィスでは

営業担当のウォーリーも、営業必達目標に近づいたことを感謝された。たった1件だったが、これほど喜ばれるとは。

「今日は寿司でも食いに行こうや!」

「ああ、そうしよう。ありがとう」

その後、業務を早く終わらせて、夜中の1時に歌舞伎町に繰り出す。歌舞伎町には1人3000円で寿司食べ放題の店があるのだ。腹一杯になったあとはメンズサウナ。汗を流したら、また仕事を頑張れるというものだ。

そのとき。

「あれ、あの子……」

「しょうきち、どうした?」

見ると、女の子がビラ配りをしていた。やたらと高いヒールに膝上30センチのミニスカート。

「あの子……どうしてこんなところで?」

なんだか嫌な予感がした。

昼間に見たインターンの女の子。ガールズバーのチラシを配っている。

何気なく近づいてみると、ビラを僕に渡してくる。顔をちらっと見ると、驚いた表情をした。

「やっぱり。ねえ。君、ドリームプランの子?」

「え、あ、いや……」

「ここでバイトしてるんだ。すごいな、昼間もあんなにバリバリ働いていたのに」

「ええ、まあ……」

知り合いにばったり会ったとか、そういうのではない違和感を感じた。なんだろう、悪くいうと、犯罪を見つかったような感じ。妙に気になる。

「あのさ、」

「何やお前、寿司はどうするんや」

さんまが驚いて言う。

「悪い、ちょっと後で行くわ」

「ほんまかいな。友達より女か。あー怖い!」

さんまは呆れていってしまう。仕方がない、後で何か奢ろう。

「入ってもいい?」

「ええ、どうぞ……」

地獄の無給インターン5:ガールズバー自爆営業

通されたのは、カウンター10席ほどの小さな店内。大音量でレゲエが流れている。ビラを配っていた女の子も、そろそろと後に続いた。カウンターを挟んで向かい合う。

「とりあえずビールで」

「はい、ありがとうございます……」

女の子はうつむきがちだ。あまり目を合わせないように、そそくさとビールを注ぐ。

「あのさ、きみ……」

「違うんです」

僕の言葉を素早く遮る。

「待ってよ。昼もあんなに働いて、夜も働き通しだろ。きつくないの」

「だって、仕方ないんです。私が成果を残せなかったから」

「成果?成果って、何のこと」

「インターン先の……」

口ごもる。

「ここのオーナー、ドリームプランの社長の弟さんなんです。成果が出せないWebページを作っちゃった私は、ここで稼いで、損失を会社に埋め合わせしなきゃいけない」

あんまりだ。あの会社は何をやっているんだろうか。無給のインターンに、損失もクソもあるか。

「私の座っている椅子も、貸していただいているノートパソコンも、全部会社のお金なんです。電気代も、水道代も、私が使っている分お金がかかっているから、私がいるだけ、お金が、お金が……」

ぽろぽろと涙を流す。

「もういいんだ。そんなに思いつめることはないよ」

「全然難しくないところを任せてもらっているのに、かんたんなのに、何もできない。私、今まで甘えすぎてた」

自分の脈拍が早くなるのを感じる。成長したいと言って加入してくれる仲間を洗脳し、成果が出せなければガールズバーで自爆営業をさせる。使い潰すまで働かせるのが正義なのだろうか。

「私はまだいいんです。男の子は、もっときつい肉体労働だから。イベント会場の設置と撤収とかで、自分の体重の半分くらいの鉄柱とかを持たせられて、階段を登って運ぶんだって」

「もう、いいよ。辛いことを聞いてすまなかったね」

財布に入っている1万円札を2枚、カウンターに置く。僕にはそれくらいしかできない。

「1日分の売上の足しにはなるのかな。ノルマに早く届いたら、帰ってゆっくり休んだほうがいいよ」

驚いた顔をしてこちらを見る。

「いえ、申し訳ないです。こんなにたくさん」

「無理に聞き出すようなことしちゃったし。ごめんね。僕は行くよ、友達を待たせているから」

地獄の無給インターン6:倫理とは

罪悪感に苛まれて、早足で店を出た。

頭の中を、女の子の歪んだ表情と悪徳クライアントへの嫌悪感がドロドロと渦巻いている。この嫌な感じはなんだろうか。ひとつだけ言えるのは、ドリームプランの社長、そして柿沼は人じゃないということ。

あいつらはインターンを何だと思っているんだろうか。便利な道具か。金のなる木か。きっとそう問いただしたとしても、採用単価がどうのこうのとか言って平気な顔をするのだろう。

寿司屋に入ると、さんまは何も食べずに待ってくれていた。ありがたいが、寿司屋でパソコンを開いて作業をしている姿はなかなかに目立つ。

「ごめん。遅くなった」

「ああ」

さんまはこちらを一目見ると、何かを察してくれたのだろう。何も咎めずに、メニューを渡してくれた。

「今日も疲れたな」

「ああ、本当に」

寿司食べ放題と、ビール1杯を頼む。お疲れ、と、静かに乾杯。その後のことは、残念ながらあまり覚えていない。さんまと何か話していたはずだが、記憶にないのだ。

地獄の無給インターン6:ブラック企業の限度

翌日。僕は頭脳警察から紹介されたクライアントの作業に打ち込んでいた。サイト制作の指示書をつくるために、Excelと格闘中だ。

普段ながめているだけならあまり意識しないかもしれないが、サイトというのはRPGのダンジョンみたいなものだ。トップページが1階。そこからはじまって、リンクをたどるたびに、どんどん下に降りていく。どこのフロアとどこのフロアがつながっていて、どのページが一番奥底で、といった、部屋の配置を確認しなければならない。

ちなみに、そんなダンジョンの間取りを確かめるために、サイトのディレクションマップなんてのも用意しなければならないのだ。ゼルダの伝説とか、風来のシレンとか、ああいうゲームのダンジョンマップを覚えているだろうか。あれをExcelでコツコツつくるようなものだと思ってくれればいい。一言で言うと、正直しんどい。

隣で作業をしているのは、インターンの小宮だ。こいつは運がいい。なぜなら、うちのインターンは無給じゃないし、例え結果が出せなくとも、詰められるだけで終わる。

ブラック企業とは言え、限度があるものだ。とは言っても、うちの会社の労務体制が褒められるべきものでもないのだが……

「小宮くん。このサイト制作、任せるって言われたら、やる?」

「えっ、や、任せてもらえるならやりたいです」

「ちなみにすごい重要なプロジェクトだから、これ、納期遅延したら損害賠償なんだけど」

「えっ、えーっ」

小宮は目を白黒させ、口をぱくぱくさせて黙る。キャパを超えるだけの不安定な情報を送ったから、脳みそがパンクしたようだ。わかりやすいやつ。

「冗談だよ。いきなりそんなの任せるわけないだろ」

「ですよね……でも最近、うちも社員の人が忙しくなっているじゃないですか。上場を控えて。だから、意外とあるのかなーって思って」

「そうだな。ある程度のラインは覚悟してもらうかもしれない。でも」

「……でも?」

「いや、なんでもない」

でも、人格を殺すまではしない。言おうと思ったが、なんとなくやめた。

奴隷制という制度を知っているだろうか。人から思想も自由もなにもかもを奪い、ただの所有物として扱う制度。残念ながら、今僕が働いている会社でもこの忌まわしい制度は継続中らしい。

しかし、奴隷の原則は「生かさず殺さず」である。奴隷は財産であるから、殺すことは損失だ。だから、支配者はきちんとラインを見定めている。うちもそうだ。

しかし、ドリームプランはそのラインを超えているように思える。人を支配下に置き「使い潰す」ことは、奴隷制度以下の卑劣な野蛮行為だ。

地獄の無給インターン7:インターンからのメール

ふと目をやると、作業を開始してから1時間半を過ぎている。いけない。メールをチェックしなければ。炎上案件のお知らせなんて来ていたらたまらない。

見ると、見慣れないアドレスだ。フリーメールから来ている。クライアントのドメインじゃない。

A社

しょうきち様

こんにちは。ドリームプランでインターンをしている、佐藤綾といいます。

ご訪問の際、頂いた名刺を見てメールしました。

先日の夜は助けていただいてありがとうございました。

もしよければ、お電話で話したいことがあります。

電話番号は……

歌舞伎町の夜、ガールズバーで会ったあの子だった。わざわざメールを送ってきてくれたのだ。電話番号を送ってきたということは、きっと何かある。

オフィスを飛び出して、廊下でダイヤルを押す。15秒ほどたってから、元気な女の子の声。

「どうも。佐藤綾さんですか」

「ええ、そうですけど……」

「メールをもらったしょうきちです。何かあったの」

実は、と佐藤がいう。ゆっくりとしゃべるその内容を聞いて、僕が思ったこと。

このドリームプランとかいう会社は腐ってる。

地獄の無給インターン7:違法企業の奴隷営業

「会社がインターンをやめさせてくれないって?」

「そうなんです。この前しょうきちさんにバーで会って、やっと気づいて。これは異常なことだってわかったんですけど、辞めるのはダメって言われました。この大事な時期に戦力を減らしたら、成長戦略に遅れが出るぞ、また損失を出すのかって言われて」

「それでもやめるって言った?」

「言えませんでした。でも、これ以上迷惑かけたらずっとガールズバーで働かせるどころか、もっと汚い接待をさせるって言ってきてて……」

また奴隷労働。僕はわかったと小さくつぶやいた。

「佐藤さん、明日、またアポに行くよ。そのときはよろしく」

自分たちがやっていることの意味をわからないやつには、ちゃんと教育してやらないといけない。ドリームプランには少し痛い目にあってもらう必要がある。僕はインターンの小宮に、明日の予定を聞いた。特にないから家で休もうと思っていたらしい。

「すまないが、明日までつきあってほしい。ドリームプランの調査書の作成と、アポの同行をお願いしたいんだ」

「本当ですか……」

「休みは振り替えておくから。申し訳ないけど、頼むよ」

「わかりました……頑張ります……」

小宮は泣きそうな顔でつぶやく。僕はねぎらいとばかりに、小宮のそばに自分のために買ってきたレッドブルを置いた。

小宮は小学校から高校までずっとパソコン部だった、ひょろながのガリガリガリクソンだ。こいつを戦うには、武器は爪楊枝で十分。大乱闘スマッシュブラザーズみたいに、つんつんすればふっ飛んで行くからな。

とは言え、中学からはザ・御三家の麻布高校、大学は当然の如く東大。明晰な頭脳をつかって10年以上パソコンでシコシコ鍛えられた資料作成力は馬鹿にならない。インターンで入社して1ヶ月で、大抵の資料作成は社員かそれ以上のレベルになった。

本人のあまり断れない性格により、やつのデスクには毎日大量の資料作成依頼が届く。普通の大学生なら1週間もかかりそうな量だが、それでも泣く寸前になりながら全て処理して帰る小宮の腕は信用できる。

小宮にはすまないが、今日はこいつと一緒にオフィスで心中だ。

地獄の無給インターン8:違法すれすれのWebページ

小宮には、マーケティングの分析のほかに別の依頼をしておいた。何かというと、グレーゾーンなWebページのピックアップだ。

覚えていないだろうか。この前も、イケイケのメガベンチャーがグレーゾーンなWebページを大量にアップしていたのを。利益をあげるための粗悪なコンテンツの大量アップロード。それが問題視され、記者会見までやる社会問題になった。

ドリームプランのページはどうかというと、出るわ出るわ。

医学的根拠のないサプリメントの記事がどんどん出てくる。それっぽい専門家の写真も載せているが、書いてあることはとにかく胡散臭い。文章もきっと、適当なコピペで済ませているのだろう。

あの激務とプレッシャーの中、冷静に医学的根拠に基づいた記事を書いていけることは不可能に近い。これだ。ドリームプランの穴を見つけた。

「小宮」

「何でしょうか……」

さらに依頼を増やされると恐怖しているのだろうか。恐る恐るこちらを見てくる小宮。

「お前の友達で、ブロガーとかいる?なるべく知名度があるやつ」

「ブロガーですか。うーん、中学からの友達で、ツイッタラーならいますよ」

「その人、どれくらい有名なの」

「そうですね、いくつかアカウントを持ってて1日中さわってるんですけど、全部でフォロワー10万とか15万とか。社会派のアカウントで、悪いやつをひたすら吊るし上げてるみたいです」

驚いた。一人の大学生が10万以上の信者を集めるのだ。

「じゃあさ、もし消費者を騙してカネを稼いでいるようなWebサービスがあったらどうなるかな」

「あー、そういうの大好物ですよ!寄ってたかって叩きまくるんじゃないかな。炎上って彼らのガソリンみたいなものだから」

小宮がいうには、社会派ツイッターアカウントにも横のつながりがあり、一つが叩くとどんどん横に飛び火していくという。まるで、アリが獲物にむらがるように、一匹の獲物を何万もの人間で貪りつくすのだ。

「OK。いいね、めちゃくちゃいい。その友達に、今度特ダネを送るから」

「しょうきちさん、一体何を……」

地獄の無給インターン10:徹夜明けのアポ

遠くに響くクラクション。太陽はじりじりとアスファルトを焼いている。地面を鳴らす革靴の音は止むことなく続く。東京の夏の昼下がりの、鬱陶しい風景だ。

体感温度を限界まで上げるが如く、そこらじゅうでアブラゼミが波状攻撃的に喚いている。なんとも真面目なことだ。

死ぬまで鳴き続けるアブラゼミと、死ぬまで働き続けるビジネスマン。果たして、どちらが勤勉なのだろうか。どちらが幸せなのだろうか。

僕とインターンの小宮はくまのできた目で、ドリームプランのビルをながめていた。何せ、1ヶ月分の調査を1日半で調べぬいたのだ。無我夢中で調べまくる僕らを見て、ギャルたちは「精神と時の部屋」と揶揄してきたが、そんなことは関係ない。

「あー、疲れた……」

「本当、全くだ」

ボロ雑巾になった僕ら。小宮はほぼ白目。

「僕、これが終わったら、二郎のラーメン食べて帰って寝るんです……」

「そうか、おめでとう」

「しょうきちさん適当過ぎませんか」

「そうかもしれない」

噛み合わない会話を続けながら、忌々しい階段をのぼってチャイムを鳴らした。マンションのオフィスには、またインターンたちが缶詰になって戦っているはずだ。

「はーい!」

「お世話になっております、A社のしょうきちと申します」

「あ……はい!お待ちしておりました!」

聞き覚えのある声。佐藤綾だ。ガールズバーに送られて働く、やめたくてもやめられないインターン。僕は綾に小声で話しかけた。

「どうも。昨日は電話ありがとう」

「いえ、そんなことはないです」

「すぐにどうこうできるかはわからないけど、できることはやってみるよ」

「はい……ありがとうございます」

部屋の中に通される。その途端、威勢のいい挨拶。ドリームプラン社の抱えるインターン軍隊だ。今日も彼らは成長と夢を得るために、馬車馬のように働くのだ。

「ちゃっす。しょうきちさん、ども」

柿沼が立ち上がる。顎を前後に動かす動作は彼流の会釈だ。近づいてくると、ブルガリの香水の匂いがした。いけ好かないやつ。軽く挨拶してから資料を渡す。Excelにして、10枚とちょっと。成長戦略の説明のために、パワーポイントも用意してある。小宮の渾身の仕事だ。

「はあー、これを1日ちょっとで。しょうきちさんマジ仕事早いっすね!」

「いえ。先日はせっかくいいお返事をきけましたから、そのご恩には報いねばと思いまして。我々も、御社の成長のお力になりたいですから」

「ぱねえっす、マジ半端ないっす。詳しく聞かせてくださいよ」

「はい、喜んで」

ゆっくりと資料をめくりながら、説明を始めた。現状、Webサイトの流入数は上がっているが、途中でユーザーが離脱してしまい、注文するまでたどり着いていない。

原因はいくつもあるが、代表的なのは2つ。まずは粗悪なコンテンツ。主語述語がごちゃごちゃにしてあったり、説明が不十分だったりしてわかりにくい。意味の分からないサプリなんて買いたい客はいない。次に、エントリーフォーム。やたらとアンケートが多く、データを見ると顧客が離脱しているのがわかった。入力が面倒くさくなり、途中で諦めてしまうのだ。

「へー!知らなかったー!確かに離脱してますね!マジすげー!」

初めてエロ本でも拾った小学生のような反応。どうやら柿沼はずぶの素人のようだ。これは行ける。

地獄の無給インターン10:毒を仕込む

「いやー、すごかったっす。正直、この先の成長あんまり見えてなくて。外部に委託するなっていう方針だったから、相談できる取引先もなかったっすよねー。マジ勉強。マジ感謝っす」

僕なら断言できる。こんなやつの下で力技でサイトを回すなんて、成長にもならない。効率のいいやり方はいくらでもあるからだ。こいつのために視力と気力と単位を失いながら、インターンに打ち込むなんて、ありえない。

さて、クロージングだ。

「本来は私だけで対応をさせて頂く予定でしたが、今回は小宮もお手伝いさせていただき、2人3脚で御社の力になりたいと考えております」

小宮が会釈する。お見合いでもしているかの表情だ。仕事ではバリバリやるが、こいつもまだ大学生である。

「今回の資料の6割は、小宮の制作物です。麻布高校から東大に入っていて、社員以上に働く優秀なインターンです」

「すげー。うちも採用してえ!!」

大げさに目を見開いてリアクションしてくるチャラ男。やはり、こいつはアホなのだろう。落とすのも容易い。

「ちなみに、どうですか。今回の件。ご検討いただけますか」

「いや、ぜひお願いしゃっす!うちの理念で、3秒直感全力判断っていう言葉があるんす。今回はマジ俺のバイブスに響いたんで、マジ直感でゴリッと発注させてもらうっす!ういうい!」

「ちなみに、決済権は柿沼様がお持ちなんですか?」

「そうっす。社長、実は今シンガポールにいて、半年以上帰ってきてないんすよ。だから、今のサプリ事業は俺が全部まるっと回してるっす。あ、ちゃんと昨日電話で許可とりましたんで、そこんとこはOKっすよ」

それなら良かった。ありがとうございます。では、こちらをどうぞ。すかさず本契約の書類を差し出し、印鑑をもらう。軽い男は印鑑を持ち出すのも軽い。

「じゃ、よろしくっす!マジ頼みますから!」

「こちらこそ。一緒に頑張っていきましょう」

握手をしながら、毒を仕込むように柿沼を見つめた。見ていろ、これからお前を丸焼きにしてやる。

地獄の無給インターン11:ピラニアの群れ

「こんなの詐欺同然。死んだほうがいいね」

「あ、ツイート消したね。魚拓取ってるから意味ないけど」

「ふざけてる。世間なめすぎ」

「よくこんな社員を採用しようと思ったね」

「すぐに会社辞めろ!!」

辛辣な言葉が果てしなく並ぶ。つい最近、ネット上でボコボコに叩かれた企業の採用向けツイッターアカウントだ。

話題になった理由は「コネ採用」。習慣的にグレーな血縁採用があることを暴露し、「コネがないなら弱者同然。受かりたいならそれなりの血縁はないとダメ。縁も実力のうち」と発言。さらに、これに反応した就活生のアカウントに対して「大企業に受かるなら、常識がなければダメ」と突き放した。

これに反応したのは、前に座る男、本村だ。小宮の友人で、10万以上のフォロワーを持つ有名なツイッタラー。炎上ネタをみつけては、そこに油を注いで大爆発を起こすのだ。混沌とするWebの中で、彼らの役割は自警団なのか、はたまた放火魔なのか。

「すごいな。こんなになるのか」

「はい。一回俺がつるしあげると、周りのフォロワーが一斉に襲いかかります。炎上大好きなやつらだから、後はもうサンドバッグみたいにボコボコになっちゃいますね。この採用アカウントの携帯は返信の通知で、1日重鳴り止まないはずです」

全く表情を変えない男。さっきカフェの中に入ってから、ずっと目線はノートパソコンの画面から動かない。話している間でも、指はキーボード上をすべるように動く。

「もともとグレーな部分に切り込むことで人気のアカウントでした。それで、天狗になって自分のポジションからはみ出て生意気なことを言っちゃったんです。幼稚ですね」

Webの世界は怖い。持ち上げられるのも突き落とされるのも一瞬だ。他のやつらよりも変わったことを言えば注目されるのは変わらない。しかし、注目されたことで自分を有名人とか有力者だと勘違いするやつもいる。

本村は、そういう奴らを腹をすかせたピラニアみたいに探している。無表情だが、こいつの内面は血に飢えているのかもしれない。

小声で小宮に耳打ちする。

「小宮くん、こいつ、いきなりナイフとかで刺してきたりしないよな。むかつくこと言うと、いきなりズブってやってきたりとか」

「大丈夫です。一応そういう姿は見たことないですね……。ちょっと変わったやつですけど、直接攻撃したりはしないです。確かに思想は過激かも」

「ああ、間違いないね」

本題に入ろう。ピラニアに餌を与えてやるのだ。

地獄の無給インターン11:ピラニアに餌まき

「本村くん。ドリームプランって会社知ってる?」

「知ってますよ。サプリを主力事業としている会社ですね。目をつけていました。返品になかなか応じなかったり、Webの説明と違うものを送りつけてきたり。あまり良い評判は聞かないですね」

驚いた。会社の名前を知っているだけでなく、クレーム内容まで知っているとは。

「やばそうな会社って、ネットの掲示板に、ちょこちょこ名前が出ているんです。だから、燃やす前に目をつけておくことができるんですね。で、変なことをしたときに、いち早く火をつけてやる、と」

表情は変わらないように見えたが、目の中の光が少しだけ鋭くなったように見える。やはり、こいつはピラニアのヘッドだ。獲物を襲う時、きっと、目がマジになる。

「話が早いね。ドリームプランのネタを手に入れたんだ」

本村の手が止まる。

「聞いています。続けてください」

「こちらからの情報は2つ。まずは医学的根拠のないサプリ記事の掲載。次に、インターンの無給労働」

僕の喋る内容を追いかけるように、猛烈な速さでキーボードを叩く。

「しかも、成果を出せないインターンには、肉体労働やガールズバーに派遣してタダ働きさせている。損失を出した賠償みたいにね」

「それ。傑作です。労働問題系の問題は時代に合っています。ブラック企業大賞というものもできていますから、世の中のバッシングは大きいでしょう。僕らにも、大義名分はあります」

「そうだろうね。どうかな、何かほしい素材はある?根拠のないWebページについては全てリストアップしてきたよ」

小宮の作ってきてくれたリストだ。問題のページのURLと根拠に乏しそうな箇所にチェックが入っている。

「さすが小宮。いい仕事だね。相変わらず細かいな」

すぐさまページを検索し、問題の箇所をなぞるように見ている。目が大きく見開かれ、前のめりになった。獲物をどこから食おうと狙っているのだ。

「あとはインターンの方なんだけれど、最後の一手がわからないんだよね。本村くん、何かいい方法あるかな」

本村は少し考えていった。

「そうですね。いきなりインターン生を登場させてもセンセーショナルすぎるし、もう少し情報に客観性がほしいですね。ブラック企業を攻撃しているアカウントで、ブラック企業ブレイカーズというのがあります。確か運営元が弁護士だったのかな。そこに聞いてみます」

またもや猛烈なタイピング。今までの流れをまとめてブラック企業ブレイカーズのアカウントにメッセージを送ったようだ。2分もかからない。

「多分もうすぐ来ますよ。できる人はレスが早いから」

言い終わる前に、メッセージの着信音。

「OK。協力してくれるそうです。ブレイカーズは非営利だから、金銭的なことは心配しないでください。僕は燃やすのが好きなだけですが、彼らはちゃんと志高くやっているから。名前は財前さん。しょうきちさんの名刺のアドレスに情報送りました」

「助かるよ」

「財前さん、ちょうど今日の夜と明日、空いているみたいですよ。よかったらアポどうですか」

地獄の無給インターン11:もう一匹のピラニア

できるやつは話が早い。僕は恐ろしく切れるピラニアと別れて、電話をかけた。

「はい、佐藤です」

「もしもし、佐藤綾さんですか。しょうきちです。A社の」

「あ、どうも!お世話になっています!」

相変わらず元気のいい声。

「今日の夜か明日って時間あるかな。ちょっと会わせたい人がいるんだ」

「え、どうしてですか。合わせたい人って誰?」

「インターンを辞める方法が見つかったんだ。その協力者と会ってもらいたくて」

「でも、簡単にはやめられないです。その、脅されてますから……下手なことはできないんです」

「それなら大丈夫。ほぼ間違いなく、うまくやってくれる人だよ」

「どんな人ですか」

「ええとね、弁護士」

「えっ!」

なんてったって、今日は日曜日なのだ。こういう日に、やるべきことは済ませ無くてはならない。いつもは日曜日でも会社にいないと「無断欠勤にしておくから」とか言われるけれども、会社の業務は午前中にひたすらやったから、お咎めまではいかないだろう。

夜8時。西武新宿裏のマクドナルドで、僕と佐藤綾は100円のコーヒーをすすりながら弁護士の財前を待った。ブラック企業を壊す弁護士。正義なのか悪なのか。柔和なのか強面なのか、全く予想がつかない。まあ、悪ではないとは思いたいが。

しばらくして、茶色のジャケットを羽織った紳士風の男がこちらに歩いてくるのがわかった。 誰かを探している素振り。

「あの、財前先生でしょうか」

僕は座ったまま軽く一礼をする。続いて佐藤も。

「先生はやめてください。私が財前です。あなたがしょうきちさんと、佐藤綾さんですね」

背が高い。だが、やわらかな表情から威圧さを感じない。安心できそうだ。

「失礼しますよ」

テーブルに腰掛ける財前。佐藤綾をまっすぐに見て、おびえる羊を手懐けるようにして言う。

「この度は大変でしたね。綾さん。どうかご心配なさらず。あなたの心配事は、もうすぐなくなりますよ」

「ありがとうございます。でも、私、絶対ばれたくなくて。私がこの情報をリークしたってこと、ばれたらひどいことされる気がして」

「ふむ」

僕はじっと財前を見つめる。伏し目がちな佐藤をゆっくりと観察している。自己肯定感を全て奪われて奴隷のようになってしまった佐藤を、財前はどんな目で見ているのか。

「相手が何かしてきそうで、怖いんです」

「それならまったくもって心配いらないよ。彼らの悪行はブラック企業ブレイカーズのサイトで公表させてもらうが、君のことは私の事務所が守ると約束しよう。君は私に話を聞かせてくれるだけでいい」

「あ……ありがとうございます!」

佐藤は泣きながら、今までの経緯を話した。

地獄の無給インターン12:祭りのはじまり

「しょうきちさん、こっちはもうOKですよ。いつにしますか。やるなら早くやりましょう」

財前とのアポの後、携帯が鳴った。声の主は、炎上が好きなピラニアの本村。

「できれば、敵を燃やすのは夜がいいですね。平日の夜なんかはみんなネットやっているから、飛び火しやすい」

「ありがとう。財前先生は2日後にはネットにアップしてくれると言っていたよ」

「了解です。2日後か、火曜。いいですね。やりましょう。アップ後すぐに、すぐに教えてください」

早口に急かしてくる。まるで、殺しを待てない快楽殺人者のよう。こいつを敵に回したくはないな。

「了解、落ち着いて、落ち着いて。火曜になったら派手にやろう。よろしく頼むよ」

「はい。また今度」

1秒で挨拶をまとめてガチャリ。せっかちなピラニア野郎だ。

地獄の無給インターン13:断末魔フィーバー

「だから、マジお前何回いったらわかるんだっつってんの!マジバカじゃねえの。マジてめえみてえなカス人間は勉強する意味ねえんだから学費全部ウチもってこいよ。どうせ意味ねえんだし」

「すみません、本当にすみません!」

「すみませんじゃねえよ。お前の作ったページ、1ヶ月たってグーグルの検索順位何位だよ」

「圏外です」

「だよなあ!1ヶ月のPVはいくつだよ」

「3です」

「だよなあああ!クズ!おい、とっとと持ってい来いよ!カネ!会社にいる時間で評価してもらおうとか甘いんだよ!」

ある日のこと。ドリームプラン社のサプリ事業マネージャーの柿沼は、いつものようにインターンをいびっていた。結果が全て。出せないやつはクズ。それが彼の仕事論だ。更に付け加えるとするならば、クズには何をしてもいい。奴隷のように扱ってもいい、と。

ふと気づく。ずっと携帯が鳴りっぱなしだ。断続的に鳴る通知音。

「うるせえな、ちょっと待ってろ」

携帯を確認する。と、そのとき。

「~~~~~~~~~~~~~!!!」

絶句。会社で運営しているツイッターアカウントの通知だ。それも、毎秒に何通もの通知が雪崩のように送り込まれてくる。

「医学的根拠なしにサプリ売ってるって絶対なめてるよね」

「最悪。もう買わない」

「クズの塊」

「この会社もう終わりだね」

「おい、なんだよこれ、なんだよこれ、マジで……何なんだよこれ!」

いくら適当な記事を書いても、こんなことは今まで一度もなかった。インターン生もそわそわしだす。明らかに変だ。何が、何が起きているんだ。驚くのも束の間、今度は電話が鳴り響く。

「お宅ドリームプランさんだよね?お医者さんのお墨付きっていうから買ったのに、嘘っぱちだったなんて。ひどい嘘つきだね!詐欺だよ!もう買わないから!」

一方的に投げつけられる、憎悪たっぷりの言葉。クソが。医者の保証だなんて、それっぽく言ってれば実際の効果なんて無視してみんな買うじゃねえかよ。たかがサプリに生意気言いやがって。金貰って商品渡したらそれだけの関係だろうが。わざわざ意味不明なことで電話かけてくんなって。

だが、電話もツイッターへの攻撃もそれだけでは終わらなかった。

「柿沼さん、見てください!うちの商品ページのレビューにすごい量の批判が書き込んであります!」

「うるせえ!なんとかしろっ!」

「どんどん増えてます!」

「だからなんとかしろよ!てめえで考えろ!」

「柿沼さん、代表を出せってお電話です!」

「折り返しにしろ!電話線を抜いておけ!今日は一切電話に出るな!」

「あの、商品のレビュー欄の方は……?」

困惑するインターン生。柿沼は叫ぶ。

「あーもう、コメント欄なんか封鎖しやがれ!何で俺がそこまで言わねえとわからないんだよ!」

「あの、柿沼さん!」

「今度は何だよ!」

「サイトが……サイトが落ちました!」

「何とかしやがれ!クソ野郎!!」

柿沼は充血した目を見開いて絶叫した。

地獄の無給インターン14:大火災、大爆発、大炎上

僕らがやったことをまとめよう。

ある医師のツイッターアカウントから出発する。「私の友人が、このサプリ販売会社に勝手に名前を使われています」「医学的根拠がまったくないアプリが売られています」とのつぶやき。もちろん、つぶやきは炎上好きの東大生、本村の根回しによるものだ。

つぶやきを見て、今度は本村がそれを拡散する。こんな企業、許しておけるか。正義のために拡散しよう、この悪行を。健康を汚す企業に罰を与えるのだ。10万を超えるフォロワーが、一斉に拡散を始める。

この宣言に食いついたのが、食や健康をとりまく美食家と、Webの喧嘩を記事にするライターたち。さらには評論家から、ロハス系の起業家まで。炎上が許せないやつ、炎上が大好きなやつ、思い思いのままにアカウントを叩きまくる。ドリームプランの悪行がどんどんまとめらて記事になり、それがまたシェアされて火に油を注ぐ。

「ドリームプラン」がホットワードになりつつある中、更に火種が投下される。財前のWebページ、ブラック企業ブレイカーズからだ。ドリームプランのインターン酷使状況について、詳細を世間に知らしめるとともに、我々は断固抗議する。

サプリの方で既に炎上しているから、延焼は早かった。普段は労働問題に興味がなさそうなアカウントも、ここぞとばかりに拡散している。そこからブラック企業断罪系のアカウント、まとめサイト、Webの大型掲示板へと舞台は広がっていく。無給で学生をいいようにこき使うな。成果が出せないから肉体労働に送り込むなんて、あり得ない。ブラック企業め、早く賃金を支払え。

ついにはドリームプランの通販ページに書き込みをしたり、電話突撃を試みるものも現れた。SNSで渦巻く憎悪が、マグマのようにサイトへなだれこんでいくのだ。そこからサイトが動かなくなった。おそらく、調子に乗ったエンジニア崩れがサーバー攻撃でもやったのだろう。祭りは目立ったやつが勝ち。過激なことをしたやつが勝ちなのだ。

おそらく柿沼は怒り狂っているだろう。やつの命もここまでだ。

1時間毎にかっちり送られてくる本村のレポートを見て、僕は仕事を進めていた。残念ながら、僕の会社もブラック企業なのだ。仕事をサボっていびられるわけにはいかない。

でも、これで終わりじゃない。柿沼には、オフィスで苦しむだけじゃ足りないはずだ。きちんと責任をとってもらう。

地獄の無給インターン15:嘲笑の記者会見

「こんちゃっす、えーと、この度は、お忙しい中集まっていただきましてー、マジ、あ、誠にー、ありがとうござーっす」

セミナールームで開かれる記者会見場で、響き渡る気の抜けた挨拶。記者たちの薄笑いが音もなく響く。僕は彼の最期を看取るつもりで高田馬場の貸し会議室に来ていた。

さて、少しだけ、ここまでの流れを紹介しようと思う。

サプリ販売を行うドリームプラン社のSNSアカウントが炎上したのはつい2日までのこと。ドリームプラン社のあらゆるウェブサイト、SNSは全て、再開するたびに攻撃される。火種は消えることがない。

ドリームプランの炎上がここまで広がった要因は一つ。マネージャーのチャラ男、柿沼が対応を見事に見誤ったということだ。ツイッターアカウントで批判してくるアカウントをブロックし続けたり、ついにはアカウントを消して逃亡しようとしたりしたのだ。

結果、攻撃は閲覧してくる相手を拒めないホームページに集中。お問い合わせフォームには苦情の洪水、注文システムにはキャンセルメールの大群だ。

柿沼は火消しが絶望的に下手だったし、ネットをなめていた。アカウントを消したところで、柿沼はそんなことで逃げられるとでも思ったのだろうか。四方八方敵に囲まれた、背水の陣だというのに。

さて、そんな彼が決定的な行動を起こす。謝罪だろうか、それとも逃亡だろうか。いや、残念ながら、彼は最後まで馬鹿だったのだ。Facebookアカウントに愚痴を書き込み、自分を正当化するという愚行を犯した。

「ネットの奴らはバカばかりです」

「俺は本気で事業をグロースしようとしていただけ」

「傍観者が何言ってんだって感じです」

「このままじゃ終わりません」

この状況でこんなことを言えるのだから、精神的なタフさは認めよう。さて、この発言はどうなっただろうか、想像してみてほしい。

結果はおそらく、ご想像のとおりだ。発言はキャプチャされ、光の速さでアップされた。その結果、矛先は柿沼自身に向けられることになる。自業自得だよね。

さらされたのは、柿沼の住所や顔写真(しかも卒アルまで!)。どんどんネット上にアップされた。不幸は不幸を呼ぶ。彼の印象の悪さから、ネットは更に湧き上がっていく。

「何だこのチャラ男は!」

「こんなやつなら叩かれて同然」

「思いやりのなさそうなやつ」

「頭が悪そうでムカムカする」

しかし、不思議なもので、書かれていることは全て同意できてしまうから面白いものだ。案外、人はネットだけでも通じ合えるのかもしれない。何せ、頭の悪さや思いやりのなさまで伝わってしまうのだから。

逃げ場所もなくなり、柿沼はついに社長にアドバイスを求めた。自分で燃料を投下しまくって自分の家を燃やしまくる哀れなチャラ男に、シンガポールに出張中の社長もついに動いたようだ。

「記者会見、マジっすか。記者会見っすか?俺が?」

電話で社長と話す柿沼の口からは、記者会見の言葉。すこしかわいそうだが、そのアホぶりを世間に晒してみるといいかもしれないな。

「どうしよ、しょうきち。マジ俺記者会見とかやったことねえし」

「大丈夫ですよ。誠心誠意、対応すればいいだけです」

いつの間にかタメ口でしゃべってくる柿沼。こういう礼節のなさが炎上を巻き起こしたんだぞ、とは教えてやらないことにした。

地獄の無給インターン16:精算

記者会見後、哀れな柿沼がどうなったかをきちんと書いておかねばならない。

やつはついに、記者会見で質問中に逆ギレした。会見はホテルでやるような大それたものではなかった。しかし、それでもいくつか飛ばされる質問は柿沼の癪に障ったようだ。報道規模は業界紙に少し載る程度だったが、やつの逆ギレがネットで少し話題になった。

さて、シンガポール帰りの社長。彼はどんな人だったかというと、僕は頭の切れて更に悪どい柿沼の親分みたいなやつを予想していたのだが、そんなことはなく。なんと、柿沼とは似ても似つかぬ柔和な紳士だった。40代後半で、子供はなし。結婚もしていない。本業は投資家で、ドリームプランの事業を柿沼に任せたのだという。若者にチャンスをやるために、だそうだ。

彼はドリームプランに戻ってきて、柿沼のやってきたことの精算を始めた。インターンへの給料も、遡ってきちんと払うという。彼は慈善事業なのか、それとも道楽なのかはわからない。ただ、変わり者の金持ちが言うには、「若者にチャンスを与えたかった。その手段として、ドリームプランをやっている」ということだけらしい。金持ちの考えって、本当にわからない時がある。

僕の契約は続き、佐藤綾が窓口になってくれることになった。僕の予想では、最初のひと月分だけ契約料を終わって後はナシという流れを考えていたのだが。 ラッキーだ。

最期に、柿沼のその後の話。やつは、なんとインターンと同じ扱いでドリームプランに残ることになった。時給1000円。やつに言わせれば「ピンチこそがチャンス。絶対に結果を勝ち取る」とでも言うのだろうか。彼のタフさは認めねばならない。僕も彼ほどの強さがあれば、ブラック企業でも永遠にやっていけるのだろう。しかし、ここまでやらかしておいて置いてもらえるのだから、なんと優しい会社。

地獄の無給インターン17:一番怖いのは……

青井に報告したところ、青井はにやりと笑って言った。

「適当に契約を結ばせて、ごねたら2、3ヶ月分くらい違約金として取れればいいと思っていたんだけど、うまくいってよかったね」

契約書の書面の最後には、「途中解約は、3ヶ月分の契約料を違約金として頂戴致します」との文面。ゾッとした。

さて、うちの会社はというと、相変わらず営業ムード。なんと、社長は新規事業として「法人向けのネット回線販売をやる」と言い出した。とにかく売りがほしいのだ。異動対象は、Webにそこまで詳しくない、マゾ彦たち。運良く僕は対象外。

「いいか。代理店営業の強豪は潰しやすい。頭の切れるやつも、そこまでいないからな。そこがチャンスだ。敵の持ってる牌を全部奪いにいけ」

その日から、マゾ彦たちは携帯を片手にひたすらテレアポ。もう一方にはレッドブルかコーヒーを持ち、朝の9時から夜の9時までひたすらに電話をかけまくる。ストレスが溜まるので、ついには携帯を片手に社内を徘徊するようになった。椅子に座っているだけでイライラしてくるという。

売上、売上、カネ、カネ……

僕らの地を這うような営業活動は続く。

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