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テスト勉強2日目。疲れるのはまだ早い
2日目にそなえて、僕は塾で昼からある動画を見ていた。
それはxvideなんとかでもdmなんとかでもなく、
「ある男が授業をしてみた」というYouTube動画。
【社会】 歴史-39 江戸時代① ・ 基本編
これ、本当にすごい。1つ1つの動画がコンパクトにまとめられていて
15分以内で見られるし、わかりやすいし、何より
中学の5教科が全単元載っている。もちろん無料。
全てを高クオリティで無料公開してくるその心意気に、
YouTuber、アフィリエイターとしての鏡を感じた。
この動画を参考に、わかりやすい授業の流れを考えていたのである。
Aくん登場。昨日よりも朗らかな表情。
1日目は歴史をガッツリやったので、
2日目は歴史の復習と理科を1時間で済ませ、
そしてできれば英語もやろうと考えていた。
ちなみにAくんは英語が苦手である。当初は理科と社会だけ
注力してもいいと思っていたが、初日の感じを見ると、これは
全教科対策してもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、Aくんがやってきた。
初日の緊張していた感じはなくなり、柔らかい表情。
とりあえず、一発目。
「江戸時代の武士の特権は?」
「名字と、あと、えーと……」
「よーし、覚えてるかな~♪」
「帯刀!」
「せいかーい!!やればできるじゃーん!!」
昨日帰りがけにやった武士の特権についてもきちんと覚えてきたらしい。
流れを意識させたら歴史は買ったも同然
Aくんと歴史の復習。忘れているかと思いきや、
見事に覚えている。8割、9割の記憶をきちんと
キープしている。お見事。
歴史はやはり、流れだ。
ストーリーを意識させれば定着が段違いに良くなる。
織田信長でいえば、
鉄砲伝来→桶狭間の戦い→天下統一
のように、流れで覚えさせるととても強い。
- ○○したから勝った
- ○○作ったから○○した
という風に、流れを作るのだ。
意外と流れで結びつけて覚えていなかったり、
言葉の意味がわからないから記憶が定着しなかったりする。
だから、
じゃあ、楽市楽座の楽ってどういう意味?
と、たまに意地悪な問題を出してみたりする。
楽っていうのはね、ルールをなくしたり緩くすることだよ!
例えば、アイスを1日1個しかたべちゃいけないのを、
1日3つまでにするみたいなこと。
楽=規制緩和の意味だから、
その印象を植え込むために小話を
ちょくちょくはさむ。
こうすることで、記憶の定着が進む上に、
楽市楽座とは何かを説明せよ、
みたいな記述問題にも強くなる。はず。
これが、英語か……テスト勉強、早くも暗礁か
理科も同様、授業前ではやっぱり
3割程度しかわからなかったものが、
何回か質問を繰り返すだけで圧倒的に伸びる。
塾講師の仕事とは、言わずもがな、
勉強を教えることなのだが、それは
生徒が記憶するための情報整理を
手伝う仕事だな、とも思った。
「いいね!じゃあ英語行こうか!!」
英語のテキストを受取り、まずは簡単な日本語訳から
やってもらおう。
「They went to there.」
「彼らはそこに行った」
「She had breakfast this morning.」
「彼女は今朝、朝食を食べた」
「やるじゃん!」
日本語訳は完璧だった。なんだ、意外とできるんだな。
そう思って、今度は英作文をやってもらおうと思った瞬間。
驚いた。スペルミスが頻出してしまうのだ。
1年生のときに習った英単語も、結構な頻度で
スペルミスしてしまう。
だから、何度か出題してみても、
英作文で一発で正解することはほぼなかった。
どうしよう。
そうやっていると、Aくんの表情にも変化が見えた。
Aくん、フルマラソン終わったみたいにくっそ疲れてた。
テスト勉強、早くも頓挫か
何度か英作文を繰り返すことで、
集中力が切れてしまったのだろう。
僕が出題しようと問題を選んでいる時、隙を見せると
後ろを向いたり、柔軟したりしてしまう。
どうすればいいんだ。
今やっている一問一答スタイルだと、
単語をスペルミスするたびに、
リズムに狂いが生じる。
リズムが狂うと、Aくんのテンションも下がる。
しかし、特定の範囲のスペルならちょっと勉強して
挽回できるが、範囲を問わないとなると対策が非常に難しい。
なるべく早く、この泥沼を回避したい。
そう思う間に、残り時間があと10分を切った。
その時、咄嗟に聞いた。
「Aくん、単語、どうやって覚えてる?」
僕は中学生の時、英語を無理やり
ローマ字読みをして覚えていた。
例えば、Languageなら「らんぐあげ」のように。
彼はどうなのだろうと思って聞いてみたところ、
「……?」
とのこと。特に覚え方はなかったようだ。
なので、一緒にローマ字読みでスペルを復習してみることにした。
「Beautifulは、べぁうてぃふる!さあ、一緒に!」
「べぁうてぃふる……」
「もっと大きな声で!」
「べぁーうてぃふる!」
「よーし、今度は一緒に!せーの!」
「「べぁーーうてぃふる!!」」
これで、スペルを書かせてみたら、
合っているのである。正解なのである。
これは来た。
勝利の兆しが見えた!
英語はうまくいく。ローマ字で徹底的に覚えさせよう。
とは言え、Aくんが疲れていたのは友人も
感づいていたようで、
「Aくん、ヤバいくらい疲れてたな……」
と言ってきた。
終了時間になると、道具をしまうのが早い早い。
都会の生意気な中学生みたいに反抗してくるわけではないが、
なんとなく嫌な雰囲気を感じていた。