転職先はブラック企業第5話はこちら
ブラック企業に同僚が入社したぞ!
さて、オフィスも新しくなったことだが、このタイミングで新しいデザイナーが入社した。
名前を「のび太くん」としよう。彼は凄まじく、何よりも、オタクな風貌だった。年齢+10〜20歳くらいに見える老け顔で、モー娘。がひたすらに好きだった。
オタク特有の挙動不審さと、いろいろなビハインドを知識の詰め込みによって解消しようとするナレッジ過多の傾向があった。
面接時、担当したギャル社員は「え、こんなオタクみたいなの入れてもいいの!?」と驚愕していたくらいである。
まあ確かに驚いてもいいくらいだろう。露骨にオタクなんだもの。というかギャル社員、お前はその金髪をどうにかしなさい。
とにかく、様々な意見があったが、当時は高度に調教された不眠不休の営業マンがバキバキに案件を取りまくっていたことで、一刻も早く人手がほしいという状況だった。したがって、のび太くんは晴れて我がブラック企業へ入社したのであった。
ブラック企業に同僚が入社1: 男は黙って
さて、何度も書いているので今更感はあるが、この会社はブラック企業である。我がブラック企業において、女性は「早く帰れる」というフェミニズムバンザイのスーパー特典があったわけだが、男性はそんなものない。朝日を見るまで働くだけである。
当然、のび太くんは男性なので、
- のび太くんは男性である
- 男性は朝日を見るまで働く
- のび太くんは朝日を見るまで働く
という三段論法が完成する。
なので、僕は非常に嬉しかった。ゴリゴリに案件を回してくれるパートナーが見つかったからだ。彼の活躍に失禁するほど期待した。
ブラック企業に同僚が入社2:体力は資本
……しかし、彼は意外と貧弱であった。
のび太くんの勤務初日。僕は早速、一緒になってホームページをガチャガチャ作っていたわけなのだが、22時頃に彼は悲鳴を上げ始めた。
「あの、もうおわりにしてもいいでしょうか……」
な、
な、
なんだって〜〜〜〜〜〜〜!!!????
おい待て。待ってくれ。話が違う。
お前はブラック企業に喜び勇んで入社して腱鞘炎になるまでHTML/CSSを絶頂しながらコーディングしてくれる激マゾのスーパーソルジャーじゃなかったのかよ!
「javascriptが正常に作動するたびに失禁する」をキャッチコピーに嬉し泣きしながら働くド変態野郎じゃなかったのかよ!
朝日の時間が近づくにあたってコーディングの量と快感指数が二次関数レベルで駆け上がって行く屈強なブラック企業戦士じゃなかったのかよ!!
失望したぜ!!!!!!!!
ファック・ユー!!!!!!!!!!!
ブラック企業に同僚が入社4:クオリティとは
とまあ、彼の「帰ってもいいでしょうか」を聞いた瞬間に悪魔の断末魔が僕の脳内を駆け巡ったわけだが、とりあえず「終電まで頑張ってもらえませんか?ムリだったらいいですけど……」と笑顔で囁いて、23時までは頑張ってもらった。
仕方ない。初日だし。徐々に戦士として調教せねばなるまい。
ちなみに、終電まで頑張ってもらったことで、僕の作業に余裕が生まれたかというと、ちぢれたチン毛ほども生まれていなかった。
僕はそれから血反吐を吐きながらのび太くんのコーディングチェックを実施した。
「おお………」
彼のコーディングは、平たく言うとバグだらけだった。
嗚呼、僕は昇天した。
ブラック企業に同僚が入社5:僕=ブラック企業
さて、1話からご覧頂いていた方はお分かりになるかもしれないが、この時点で僕の精神はブラック企業に取り込まれていた。そして、ブラック企業的な働き方を「他者に求めるように」なっていた。
企業文化に染まると、人は客観的視点から考えられないような発言・思考・行動を起こすことがある。
これはブラック企業文化にも言えることで(もしかしたらブラック企業のほうがより強く言えるかもしれない)、明らかに労基法違反のクソ労働を、普通に強制しようとする。
膨大な仕事を処理しろという「命令」と、成長するためなら仕方ないという「理由」が、自由意思を侵食し、過剰労働への賛美となって、人を突き動かす。
やがて、そのとおりに仕事をしない人間を悪と断定し、攻撃を始める。
これは闇だ。
ブラック企業の闇なのだ。