【体験談】転職先はブラック企業

転職先はブラック企業第9話「クライアントからのクレーム」

「「おこだよ!」と子供を叱る鬼「おこだよ!」と子供を叱る鬼」[モデル:大川竜弥]のフリー写真素材

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ブラッククライアントがクレームを言ってきた!

僕の所属するブラック企業のホームページ制作部隊のクライアントは、コンサル会社「頭脳警察」からの紹介で受注していた。

ある日、僕は品川駅に直結している頭脳警察のヘッドオフィスにいた。上司とともにである。

通された応接室はエアコンが聞きすぎるほど効いている。手にした資料が汗でにじむ。

7月。アスファルトが熱を照り返してくるコンクリートジャングルの真夏。普段ならシャツ1枚で訪問に出かけるのだが、今日は僕も上司もジャケットを羽織り、ネクタイをしている。きちんとした服装をしてくるということは、それなりの理由があるのだ。

ガチャリと音がしてドアが開く。大柄な男が一人立っていた。僕は上司とともに素早く立ち上がり、深々と礼をした。

クライアントからのクレーム1:相手のボス、登場

現れたのは、頭脳警察のマネージャー、後藤であった。ラグビーか何かやっていたのだろうか、太い腕に180をゆうに超える体格の良さ。顔は四角く、眼光は鋭い。30代半ばで若くしてコンサルティング部隊のチームを束ねているが、将来は役員クラス確実とも言われるらしい。

「さて、今回のクレームの経緯を聞かせていただきましょうか」

後藤が言い放つ。僕らはつばを飲み込み、謝罪を始めた。

「大変、申し訳ございませんでした!」

クライアントからのクレーム2:クレームの経緯

頭脳警察に呼び出されたのは、僕がもらったクレームについて説明するためであった。

シンプルに言えば、頭脳警察から紹介してもらったホームページ制作案件が、予定の2倍かかってもまだ完成していないということだ。

その案件は、僕が入社する前の3月に受注していた。宝石店のホームページをリニューアルするというものだ。

ところで、ホームページ制作というのは簡単に分けると4つの工程に分解できる。

  1. どんなサイトにしたいかヒアリングする
  2. デザインを作る
  3. デザインをコーディングする
  4. テキストを流し込む

わかりにくいので、誕生日のホールケーキに例えると、

  1. どんなケーキがいいか聞く
  2. クリーム(ソース?)を作る
  3. 生地を焼き、クリームをのせて成形する
  4. メッセージを書く

という感じである。

ここでご理解いただきたいのが、生地に生クリームを乗せたあとで、

やっぱチョコクリームがいい!!

と言われたとしたら、生地もクリームも全部作り直しであるということだ。

生地にはもう生クリームがべっとりだから、新しいクリームも生地も準備しなければならない。

もし希望のクリームが特殊なら、生地の素材の配合分量さえも再考しなければならなくなる。

これと同様の話で、デザインが確定してコーディングに入ったサイトに対して「やっぱ別のデザインがいい!」なんて言ったら大変である。最悪、全部作り直しだ。

クライアントからのクレーム3:原因はすれ違い

ケーキの比喩を用いればいくらかは理解していただけたかもしれないが、残念ながらクライアントには全く理解していただけないことなのである。

今回のクレームのスケジュール遅延も、度重なるデザイン変更により、クライアントも頭脳警察も、当然僕らも予想し得ないほどのスケジュール遅延がおこった。

スケジュールの遅延だけを指して、制作側を攻めようというのは容易い。しかし、それは待ってもらいたい。スケジュールの遅延はホームページ制作のビジネスモデルを理解していないことが原因なのである。

クライアントからのクレーム4:紹介制ホームページ制作の罠

本来、クライアントと直で契約ができるのであれば、 上記のような説明を僕らからすることは可能だ。

しかし、今回はそうはいかない。

案件の旗振り役として頭脳警察が介入しているから、僕らからは一切クライアントとコミュニケーションが取れない。正確には、「契約上、取ってはいけない」。

残念なことに、頭脳警察はITのプロではない。したがって、なぜ制作が遅れているのかもわかっていないし、デザイン変更、仕様変更がどれだけスケジュールを狂わせるかもてんで理解していない。

そんな中、コンサルな訳だから、クライアントに説明しなければならないのだ。ホームページ制作の成果を。

うまく案件が進んで言えれば良い。クライアントも何も言わない。

しかし、案件がうまく回っていないと、定例のミーティングの際、「ホームページまだできていないけど大丈夫?」「何やってんの?」となるのだ。

だから、スケジュールが狂っている理由をクライアントに説明できず、言われるがままに怒られる。

もちろん、その矛先は僕らに向かう。

今回がまさにそのケースだ。

後藤は言う。

「我々は確かにITのプロじゃないから、御社からしたら筋の通っていないことも言ったかもしれない。だが、しょうきちさん、あなたは我々のオーダーを無碍にしすぎではないかな」

「確かにデザインの途中変更などはお断りしたことがございます。しかし、それでは当初のスケジュールをお守りすることができないため、やむなくお断りしました」

僕は契約時のスケジュールを守るため、急な仕様変更などはなるべく受けないようにした。それが案件を紹介してくれる一部のコンサルタントの恨みを買ったらしい。

「我々は案件を紹介する際、ほとんどマージンをとっていない。それはクライアントに無駄な金額をお支払いただくのを避けたいだけではなく、御社のためを思ってのことでもある」

後藤の言い分は、「紹介してくれてやってるんだから少しはムリを飲め」ということらしい。しかし、ムリを飲んだ結果が今回の納期大幅遅延だ。それに、1案件に何ヶ月もかけていたら工数と粗利の効率が合わなくなる。そうなれば、社長からの罵倒と暴力は免れない。

頭脳警察と社長とのジレンマに陥っていたとき、後藤から衝撃的な言葉を聞かされた……

クライアントからのクレーム5:僕が全て悪いんですか?

「しょうきちさん、あなたは当社で話題になっていますよ」

「えっ」

「当社では日報を前者で共有することになっているのですが、今回のクレームで担当コンサルタントが状況を詳細に報告しましてね。どういった経緯でクレームが発生したか、全社員が知っているんです」

「そんな……」

「あなたと組みたくないと言っているコンサルタントも出てきています」

ホームページ制作案件で起きた納期遅延。これは全話で記載したとおり、担当コンサルタントがムリな仕様変更を押し通そうとしてきたからに他ならない。

「しかし、デザイン工程を経た後は、サイドのデザイン変更はできないと契約書にも書いているはず……」

いいかけたが、この先を言うのはやめた。後藤は契約がどうとかそういう話をするつもりではないのだ。契約以上の融通を利かせろという話なのだ。僕はぐっとこらえた。

ついてきた上司は黙っている。ちなみに、仕様変更を断るように支持したのは紛れもなくこの上司である。こいつ、僕に責任を押し付ける気か……

「この件は御社の代表へも連絡しておきます。我々は今回だけで契約をきっぱりやめる気はありません。不平を言うコンサルタントもいますが、私がなだめておきます。それでは、今後の改善に期待します」

きっぱり言うと、後藤は足早に会議室を後にした。

クライアントからのクレーム6:社長からの怒号

午後3時の山手線にゆられながら、重い気分で会社へと帰る。訪問は1時間もなかったが、永遠に感じるような重苦しさがあった。上司とは一切口を聞かずに会社へと戻った。

会社へと戻った瞬間、僕と上司は社長に呼び出された。

「お前らなめてんの?」

開口一番、社長からの怒号が飛ぶ。

「頭脳警察はうちの中で一番発注に貢献してくれてるパートナーなんだけど。なのに、頭脳警察を怒らせてどうすんの?」

社長は足をデスクに乗せながら、ふんぞりかえって言う。僕らは小さな声でハイ、としてか言えない。

「頭脳警察が紹介してくれる案件、1社だけで売上1億超えてるんだからね。お前らもし受注できなくなったとしたら自分たちで補填しろよ」

ハエを追い払うような仕草で僕らを追いやる。「戻っていい」のサインだ。僕らは消沈しながら席へ戻った。

クライアントからのクレーム7:深夜1時からのミーティング

「大変だったみたいですね……」

席につくと、デザイナーの新卒の女の子が声をかけてきてくれた。病弱で定時に帰りたがるのが玉にキズだが、仕事は丁寧で一生懸命である。

「心配かけてごめん。今日、夜にミーティングして体制を立て直すから」

「ありがとうございます。辛いんですよね、何度もデザインをまっさらにされるの……言う方は簡単なんでしょうけど」

デザイナーも、何度もやり直しをさせられるのは辛いのだ。

直近で僕らがやらなければならないのは、クレーム案件のTODO整理と他の案件の状況確認であった。あまりにも案件が多すぎるので、それぞれの案件がどんな状況なのかを把握できていない。

上司と話して、それを改善するために、毎日深夜1時からミーティングをすることにした。扱っている60以上の案件をすべて確認して、エクセルに状況をまとめるのだ。

もしアクションをとれていなかったら、その場で頭脳警察に連絡するようにした。頭脳警察のコンサルタントも夜中の1時くらいなら電話に出てくれる。

3時になって、ようやく案件整理が終わる。上司と2人でウンウンうなりながらエクセルをポチポチやり、終わった瞬間に椅子のせもたれをきしませながらダランとやる。

「疲れた……」

「ですね……」

10分位そのまま休憩した後、24時間経営のメンズサウナへ向かった。家に帰れないから、メンズサウナで風呂に入るしかないのだ。

一向に減らないどころか増えていく残業時間。僕は苦悩しながら歓楽街のサウナへと向かっていった。

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